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東京地方裁判所 昭和55年(ワ)4889号 判決

A事件原告 山中延晃

A事件原告・B事件被告 三浦亮橘

B事件被告 ミウラプラント株式会社

右代表者代表取締役 三浦亮橘

右三名訴訟代理人弁護士 手塚敏夫

A事件被告・B事件原告 黒田電気株式会社

右代表者代表取締役 黒田善一郎

右訴訟代理人弁護士 塚田喜一

主文

一  (A事件について)

原告山中延晃及び原告三浦亮橘の請求は、いずれもこれを棄却する。

二  (B事件について)

被告ミウラプラント株式会社及び被告三浦亮橘は、各自、原告黒田電気株式会社に対し、金一五七三万二〇〇〇円及びこれに対する昭和五五年一一月一日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は、両事件を通じ、A事件原告山中延晃、A事件原告(B事件被告)三浦亮橘、B事件被告ミウラプラント株式会社の負担とする。

四  この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(A事件について)

一  請求の趣旨

1 被告は原告山中延晃に対し金三九一万七二九〇円及びこれに対する昭和五五年五月二五日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

2 被告は原告三浦亮橘に対し、別紙物件目録記載の土地及び建物について、それぞれ東京法務局世田谷出張所昭和五三年七月二四日受付第三四八三一号根抵当権設定登記の各抹済登記手続をせよ。

3 訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 主文第一項と同旨。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

(B事件について)

一  請求の趣旨

1 主文第二項と同旨。

2 訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二A事件についての当事者の主張

一  A事件の請求の原因

1  A事件原告山中延晃(以下「原告山中」という。)の請求の原因

(一) B事件被告ミウラプラント株式会社(以下「被告ミウラプラント」又は「ミウラプラント」という。)は空調設備の設計設備施工その他の業務を営む会社であるところ、A事件被告・B事件原告黒田電気株式会社(以下「被告黒田電気」という。)に対し、別紙一覧表記載の日時頃に、同表記載の物品を同表記載の数量・単価・代金で、売り渡し、又は工事を請け負い完成して当該物品を引き渡した。

(二) ミウラプラントは右代金債権の総額を昭和五五年四月三〇日に原告山中に譲渡し、同日被告黒田電気に対し右債権譲渡の通知をし、同通知は翌日同被告に到達した。

よって、原告山中は、被告黒田電気に対し右代金三九一万七二九〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五五年五月二五日から完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  A事件原告・B事件被告三浦亮橘(以下「原告三浦」という。)の請求の原因

(一) 原告三浦は、昭和五三年七月二四日に被告黒田電気とミウラプラント間の建設業法二条一項別表に定める機械器具設置工事の継続的請負取引によりミウラプラントが被告黒田電気に負担することあるべき債務について、同被告のために別紙物件目録記載の土地建物(以下「本件土地建物」という。)に極度額二〇〇〇万円の根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)を設定し、東京法務局世田谷出張所昭和五三年七月二四日受付第三四八三一号を以て根抵当権設定登記を経由した。

(二) しかるに、ミウラプラントは昭和五五年三月一五日に不渡手形を出し、事実上倒産した。このように物上保証人の将来の求償権の行使等にも多大の支障を生ずるおそれもある等、著しい事情の変更のある場合には、物上保証人は事情変更の原則に基づいて根抵当権の確定請求をすることができるので、原告三浦はA事件訴状を以て被告黒田電気に右根抵当権の確定請求をする。しかるところ、現在右根抵当権によって担保される債権は存在しないから被告黒田電気は右根抵当権設定登記を抹消すべき義務がある。

よって、原告三浦は、被告黒田電気に対し、本件土地建物について右根抵当権設定登記の抹消登記手続を求める。

二  A事件の請求の原因に対する認否

1  原告山中の請求の原因について

(一) 請求の原因(一)のうち、ミウラプラントが原告山中主張の業務を営む会社であること及び別紙一覧表のうち6、8、10(2)の債務が発生したことは認め、その余の事実は否認する。

(二) 同(二)のうち、債権譲渡の事実は不知、譲渡通知が到達したことは認める。

2  原告三浦の請求の原因について

(一) 請求の原因(一)の事実は認める。

(二) 同(二)のうち、ミウラプラントが倒産したことは認める。元本の確定請求に関する法律上の主張は争う。

三  原告山中の請求の原因に対する抗弁(相殺の抗弁)

1  反対債権の存在

被告黒田電気は、ミウラプラントとの間の後記四の請負契約に関連して、ミウラプラントに対し別紙反対債権目録記載のとおり合計六九万三二四五円相当の材料を売却し、同額の代金債権を取得した。

2  相殺の意思表示

被告黒田電気はミウラプラントに対して、昭和五五年四月一〇日頃、前記六八万八〇〇〇円の債務と右六九万三二四五円の債権とを対当額で相殺する旨の意思表示をしたところ、右意思表示はその数日後ミウラプラントに到達した。

四  原告三浦の請求の原因に対する抗弁

1  訴外岩崎電気株式会社(以下「岩崎電気」という。)関係の被担保債権

被告黒田電気は、岩崎電気から受注した請負工事を更にミウラプラントに請負わせたが、工事に瑕疵があったため、ミウラプラントに対して、次のとおり合計一二八二万二〇〇〇円の損害賠償債権を取得した。

(一) 契約の成立

(1) 契約締結 昭和五三年八月三日

(2) 請負工事の名称 KA処理装置一〇式組立及び設置

(3) 請負代金 六二五〇万円

(4) 完成期日 昭和五三年一〇月三一日

(5) 設置場所(納入先) 茨城県真壁郡大和村高森字桜山 岩崎電気茨城製作所内

(6) 特約

(イ) 請負人であるミウラプラントが、当該装置を設置場所に設置した後、納入先の岩崎電気側の担当者立会の上で試運転と検査を行ない、試運転に故障がなく検査に合格した時点で、被告黒田電気はミウラプラントに代金を完済するものとし、同時に所有権はミウラプラントから納入先の岩崎電気に移転するものとする。

(ロ) 試運転に故障があり、その他検査が不合格のときは、注文者である被告黒田電気の指定する期日までにミウラプラントの費用で完全に修理するか、新品と取り替えるものとする。

(ハ) 所有権の移転後一か年以内に材料又は工作上の不備に起因する瑕疵を発見し、若しくは故障を生じた場合は、ミウラプラントは被告黒田電気の指定する期日内に自己の費用を以て完全に修理するか、若しくは新品と取り替えるものとする。

(二) 請負工事の概要

KA処理装置は、被告黒田電気が岩崎電気から製作を請負ったもので、K、A、Rの三つのコンベアーシステムから成り、自動的に連続して作動し、アルミ板に特殊化学処理をして、照明機器用反射板を大量生産する装置である。

この装置の各種処理槽及び高温と低温の乾燥炉は以前にも手がけており殆ど問題はないが、自動搬送ラインには技術上困難なところがある。

(三) 債務不履行

ミウラプラントは契約後直ちに着工したが、当初の約定期限を過ぎても工事を完成することができず、再三督促して昭和五五年一月に至った。結局、ミウラプラントの能力では検査の合格は望み得ないことが明白となったので、被告黒田電気としては、別の下請業者を使用し、同年三月ミウラプラント倒産後の同年五月に漸く工事を完成し、検査にも合格して岩崎電気に本件装置の所有権を移転した。

(四) 工事代金の支払

本件請負工事の代金は、昭和五四年六月一二日までにミウラプラントに全額支払済みである。

(五) 本件工事の瑕疵と瑕疵修補による損害額

前記三つのラインのうち、主としてAラインとRライン(以下、両者を一括して「A処理装置」という。)の自動コンベアーシステムに欠陥があり、ライン全部を通じて計画された作業の進行に渋滞を生ずる。瑕疵とその改造に要した費用は次のとおりである。

(1) A処理装置の一般的な作動不良とノッキング(異常雑音)

(イ) ノッキングの究明調査費 一八万二〇〇〇円

(ロ) A処理装置の全般的な搬送システムの手直し工事費 七六〇万円

(ハ) そのための改造部品費 二七九万円

計 一〇五七万二〇〇〇円

(2) A処理装置のトラバーサー(移載装置)、ジャンピング(自動飛越装置)、炉間受渡装置等特殊部分とその電気系統の欠陥

(イ) 工事費(電気工事を含む。) 一〇〇万円

(ロ) そのための改造部品費 八〇万円

計 一八〇万円

(3) 化学処理槽に備えつけられたダクトの腐蝕

腐蝕防止のためステンレスに取り替える工事費 四五万円

2  訴外松下冷機株式会社(以下「松下冷機」という。)関係の被担保債権

被告黒田電気は、松下冷機から受注した機械装置の設置工事を更にミウラプラントに請負わせたが、工事に瑕疵があったため、ミウラプラントに対して、次のとおり合計二九一万円の損害賠償債権を取得した。

(一) 契約の成立

(1) 契約の締結 昭和五四年八月二日

(2) 請負工事の名称 松下冷機コンプレッサー事業部の乾燥炉ガス脱臭装置の設置工事

(3) 請負代金 二四五〇万円

(4) 完成期日 昭和五四年九月一〇日

(5) 装置設置場所(納入先) 神奈川県藤沢市辻堂元町六丁目四番三号松下冷機コンプレッサー事業部内

(6) 特約 前記2(一)(6)と同旨

(二) 請負工事の概要

工事の目的は、コンプレッサー(圧縮機)の表面処理用焼付炉から出る排ガスを脱臭するため、直燃方式を採用し、廃熱を利用して真空乾燥炉と焼付炉に熱を供給し、公害予防を一挙に実現することにある。

工事の内容は次のとおりである。

(1) 既設の熱風発生炉三基のうち二基を撤去する。

(2) 新たに屋上に、従来の熱風発生炉一基と並べて、脱臭炉と熱交換器を設ける。

(3) 二階の焼付炉と真空乾燥炉を改造する。

(4) 各炉を通ずるダクト網を構成し直し、B、Cの二ラインを設置する。

(三) 債務不履行

本件請負工事についても、被告黒田電気はミウラプラントに対し昭和五四年九月までに代金全額を支払ったが、完成期日を過ぎても、松下冷機側の検査に合格せず、被告黒田電気の催告に拘らず、ミウラプラントは後記(四)の残工事と瑕疵の修理をせず、同年一〇月末になって、ミウラプラントには財政的にも技術的にも、工事完成が不可能であることが明白となった。そこで、被告黒田電気は同年一一月以降、別の工事業者に残工事と瑕疵の修補をさせ、昭和五五年四月までに松下冷機側の検査に合格させ、同社に装置の所有権を移転した。

(四) 工事の未完成部分と装置の瑕疵及びその完成・修補に要した出捐の損害

(1) 旧炉二基の撤去と廃材の運送及び投棄 一〇五万円

(2) 循環熱風量の計算違いによるダクトの欠陥の改造工事費 一六五万円

(3) 焼付炉と真空乾燥炉の間の隔壁の不良による熱風洩れの隔壁改造工事費 二一万円

計 二九一万円

3  本件根抵当権の元本確定とその金額

(一) ミウラプラントは昭和五五年三月二四日銀行取引停止処分を受けたが、その後、本件土地建物について、東京地方裁判所昭和五五年(ケ)第一一三九号不動産競売事件(申立人は訴外城南信用金庫)により同年九月二九日不動産競売開始決定がなされ、被告黒田電気は同年一〇月一七日債権届出の催告書を受領して、競売開始決定の事実を知った。そこで、被告黒田電気の有する根抵当権の被担保債権の元本は同月三一日確定した。

(二) ところで、同日現在の右被担保債権の額は、前記1、2の合計一五七三万二〇〇〇円である。

五  抗弁に対する認否

1  相殺の抗弁については、反対債権の存在(三1)、相殺の意思表示(三2)のいずれも否認する。

2  岩崎電気関係の被担保債権(四1)の冒頭の主張は争う。

(一) 契約の成立(1(一))については、(1)(3)(4)(5)は認める。(2)の名称は一部否認する。すなわち、請負工事の名称は「KA処理装置」である。(6)(イ)のうち、「納入先の岩崎電気側の担当者立会の上で」とある部分及び「同時に所有権はミウラプラントから納入先の岩崎電気に移転する。」とある部分を否認し(真実は、契約当事者である被告黒田電気とミウラプラントの立会の上で試運転等を行なうのであり、所有権はミウラプラントから被告黒田電気に移転する。)、その余は認める。(6)(ロ)のうち、「試運転に故障があり、」とある部分は否認し、その余は認める。(6)(ハ)は認める。

(二) 請負工事の概要(1(二))については、「自動的に連続的に作動し、アルミ板に特殊化学処理をして照明機器用反射板を大量生産する装置である」とある部分は不知、その余は認める。

(三) 債務不履行(1(三))については、ミウラプラントが契約後直ちに着工したこと及びミウラプラントと被告黒田電気との間の検査に合格したことは認めるが、その余は否認する。

(四) 工事代金の支払(1(四))の事実は認める。

(五) 工事の瑕疵と瑕疵修補による損害額(1(五))のうち、(1)(3)は瑕疵・損害額とも否認し、(2)は瑕疵は不知、損害額は否認する。

3  松下冷機関係の被担保債権(四2)の冒頭の主張は争う。

(一) 契約の成立(2(一))については、(1)(3)(4)は認める。(2)は一部否認する。すなわち、請負工事の名称は「松下冷機コンプレッサー事業部の乾燥炉ガス脱臭装置」である。(5)の装置設置場所は、「松下冷機コンプレッサー事業部内」ではなく「松下冷機藤沢工場」である。(6)の認否は、2(一)(6)と同じである。

(二) 工事の概要(2(二))については、「公害予防を一挙に実現するにある」とある部分を否認し、その余は認める。

(三) 債務不履行(2(三))のうち、被告黒田電気がミウラプラントに対し昭和五四年九月までに代金全額を支払ったことは認め、その余は否認する。

(四) 工事の未完成部分と装置の瑕疵及びその完成・修補に要した出捐による損害(2(四))の事実は、いずれも否認する。

4  本件根抵当権の元本確定とその金額(四3)についての認否は次のとおりである。

(一) 被担保債権の確定に関する事実(3(一))の事実は認める。

(二) 被担保債権の額(3(二))は否認する。

六  再抗弁

被告黒田電気主張(四12)の損害賠償債権は工事の瑕疵担保責任を理由とするものであるが、岩崎電気関係(四1)の工事に基づく債権は、仮に発生したとしても、目的物引渡後一年を経過しているので、消滅時効期間を経過している。よって、消滅時効を援用する。

七  再抗弁に対する反論

本件瑕疵担保責任の存続期間は除斥期間であって、消滅時効期間ではない。

ところで、岩崎電気関係の請負契約における目的物引渡の時期は被告黒田電気が納入先の岩崎電気に所有権を移転したときと考えるのが相当である。したがって、除斥期間の起算点は昭和五五年四月であるところ、被告黒田電気はミウラプラントに対し同年七月一一日に損害賠償請求をし、更に、同年一〇月二八日に前記四3(一)記載の東京地方裁判所昭和五五年(ケ)第一一三九号不動産競売事件において債権の届出をした。これにより、被告黒田電気は除斥期間内に権利を行使しているので、原告三浦の再抗弁は失当である。

第三B事件についての当事者の主張

一  請求の原因

1  被告黒田電気は、塗装、公害、省力等の設備の設計、製作及び施工その他各般の業務を営む株式会社であり、被告ミウラプラントは空調設備の設計設備施工その他の業務を営む株式会社であり、原告三浦はその代表取締役である。

2  A事件における原告三浦の請求の原因に対する抗弁(第二、四)のとおり。

3  請負契約に先立つ昭和五三年七月二四日、原告三浦は被告(B事件原告)黒田電気に対し、被告ミウラプラントの被告黒田電気に対する請負取引に基づく一切の債務につき、二〇〇〇万円を極度額として、連帯保証(根保証)した。

よって、被告黒田電気は、被告ミウラプラント及び原告三浦に対し、各自、右確定元本金一五七三万二〇〇〇円及びこれに対する確定の日の翌日である昭和五五年一一月一日から完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1のうち、被告黒田電気の業務目的は不知、その余は認める。

2  請求の原因2に対する認否は、A事件における抗弁に対する認否(第二、五、2、3)のとおり。

3  請求の原因3の事実は認める。

三  抗弁

A事件における再抗弁(第二、六)のとおり。

四  抗弁に対する反論

A事件における再抗弁に対する反論(第二、七)のとおり。

第四証拠関係《省略》

理由

一  当事者の業務について

《証拠省略》によれば、被告黒田電気は塗装、公害、省力等の設備の設計、製作及び施工その他各般の業務を営む株式会社であることが認められ、被告ミウラプラントが空調設備の設計設備施工その他の業務を営む株式会社であり、被告ミウラがその代表取締役であることは当事者間に争いがない。

二  A事件原告山中の請求について

1  A事件請求の原因1(一)のうち、ミウラプラントが被告黒田電気から別紙一覧表6、8、10(2)の発注を受け、工事を完成して引き渡したことは当事者間に争いがない。《証拠省略》によれば、右6、8、10(2)以外の工事についても、ミウラプラントが被告黒田電気から発注を受け、一応工事をしたことが認められる反面、右工事は完成していないことが窺われ、右工事を完成した旨の《証拠省略》は措信し難く、他に右工事完成を認めるに足りる証拠はない。

したがって、ミウラプラントは、被告黒田に対して右6、8、10(2)の工事代金六八万八〇〇〇円の債権を取得したことは右認められるが、右金額を超える部分については原告山中の主張は認められない。

2  A事件請求の原因1(二)のうち、ミウラプラントが右代金債権を昭和五五年四月三〇日に原告山中に譲渡したことは《証拠省略》によって認められ、ミウラプラントが同日被告黒田電気に債権譲渡の通知をし同通知が翌日同被告に到達したことは当事者間に争いがない。

3  そこで被告黒田電気の相殺の抗弁(当事者の主張三)について判断する。

(一)  《証拠省略》によれば、被告黒田電気はミウラプラントに対し別紙反対債権目録記載のとおり合計六九万三二四五円相当の材料を売却し、同額の代金債権を取得したことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(二)  《証拠省略》によれば、被告黒田電気はミゥラプラントに対して、昭和五五年四月一〇日頃、右(二)の代金債権六九万三二四五円を自働債権とし、前記1の譲渡債権を受働債権として対当額で相殺する旨の意思表示をし、右意思表示は数日後にミウラプラントに到達したことが認められる。

4  したがって、被告黒田電気の相殺の抗弁は理由があり、原告山中の請求は理由がない。

三  A事件原告三浦の請求及びB事件について

1  A事件原告三浦の請求の原因について

(一)  原告三浦の請求の原因(一)の事実(根抵当権設定契約の成立と根抵当権設定登記)は当事者間に争いがない。

(二)  同(二)のうち、ミウラプラントが昭和五五年三月一五日に不渡手形を出し、事実上倒産したことは当事者間に争いがない。ところで、被告黒田電気の抗弁3(一)(競売開始決定を知ったことによる根抵当権の元本確定)の事実は当事者間に争いがない。

したがって、右根抵当権の被担保債権の元本は昭和五五年一〇月三一日に確定したものというべきである。

2  A事件原告三浦の請求の原因に対する抗弁並びにB事件の請求の原因について

(一)  岩崎電気関係の被担保債権について

(1) 昭和五三年八月一日に、ミウラプラントと被告黒田電気との間において、岩崎電気茨城製作所内のKA処理装置についての請負契約が成立したこと自体及び請負代金、完成すべき年月日、設置場所と特約のうち次に認定する部分を除く部分とについては当事者間に争いがない。

《証拠省略》によれば、右請負工事の名称は「KA処理装置一式の組立及び設置」であり、特約として、試運転と検査には納入先の岩崎電気側の担当者が立会い、試運転に故障がなく検査に合格した段階で被告黒田電気はミウラプラントに代金を完済するものとし、その時点において所有権はミウラプラントから岩崎電気に移転すること、試運転に故障がありその他検査が不合格のときは、被告黒田電気の指定する期日までにミウラプラントの費用で完全に修理するか新品と取り替えるものとすることも合意されたことが認められ(る。)《証拠判断省略》なお、前記乙第一号証の標題は「売買契約書」であるが、契約の内容は前記認定事実に徴し、請負契約と解すべきである。

(2) KA処理装置は被告黒田電気が岩崎電気から製作を請負ったものであり、K、A、Rの三つのコンベアーシステムから成ることは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、右三つのコンベアーシステムは自動的に連続して作動し、アルミ板に特殊化学処理をして照明機器用反射板を大量生産する装置であることが認められる。なお、ミウラプラントは、この装置の各種処理槽及び高温と低温の乾燥炉は以前にも手がけていたので技術上問題はなかったが、自動搬送ラインは技術上困難なところのあることは、当事者間に争いがない。

(3) ミウラプラントが契約成立後直ちに工事に着手したことは当事者間に争いがない。《証拠省略》によれば、ミウラプラントは当初の約定の期限を過ぎても工事を完成することができず、昭和五五年一月に至ったもので、被告黒田電気としては別の下請業者を使用し、同年五月に漸く工事を完成し、岩崎電気の検査にも合格して岩崎電気に本件装置の所有権を移転したことが認められ(る。)《証拠判断省略》

(4) 被告黒田電気が岩崎電気関係の本件請負工事代金全額を昭和五四年六月一二日までにミウラプラントに支払ったことは当事者間に争いがない。

(5) 《証拠省略》によれば、ミウラプラントの施工した工事には被告黒田電気主張(前記第二、四、1、(五))の瑕疵があり、その修補のため同被告は合計一二八二万二〇〇〇円を出捐したことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(二)  松下冷機関係の被担保債権について

(1) 昭和五四年八月二日に、ミウラプラントと被告黒田電気との間において、松下冷機の乾燥炉ガス脱臭装置についての請負契約自体が成立したこと及び請負代金、完成すべき年月日並びに特約のうち次に認定する部分については当事者間に争いがない。

《証拠省略》によれば、右請負工事の名称は「松下冷機コンプレッサー事業所のコンプレッサー焼付炉排ガス脱臭処理装置の設置工事」であり、装置設置場所は神奈川県藤沢市辻堂元町六丁目四番三号松下冷機コンプレッサー事業所内」であり、特約として、試運転と検査には納入先の松下冷機側の担当者が立会い、試運転に故障がなく検査に合格した段階で被告黒田電気はミウラプラントに代金を完済するものとし、その時点で所有権はミウラプラントから松下冷機に移転すること、試運転に故障がありその他検査が不合格のときは、被告黒田電気の指定する期日までにミウラプラントの費用で完全に修理するか新品を取り替えるものとすることも合意されたことが認められ(る。)《証拠判断省略》

(2) 《証拠省略》によれば、右工事は、省エネルギーを謀り、職場の環境安全を向上することをも目的とし、ひいては、公害予防をも実現しようとするものであることが認められ、被告黒田電気主張の工事概要(第二、四、2、(二))のその余の事実は当事者間に争いがない。

(3) 右工事について、被告黒田電気がミウラプラントに対し昭和五四年九月までに代金全額を支払ったことは当事者間に争いがないところ、《証拠省略》によれば、ミウラプラントは完成期日(昭和五四年九月一〇日)を過ぎても松下冷機側の検査に合格せず、残工事と瑕疵の修補もしなかったので、被告黒田電気は同年一一月以降、別の業者に残工事と瑕疵の修補をさせ、昭和五五年四月までに松下冷機側の検査に合格させ、同社に装置の所有権を移転させたことが認められ(る。)《証拠判断省略》

(4) 《証拠省略》によれば、ミウラプラントの施工した工事には、被告黒田電気主張(前記第二、四、2、(四))の瑕疵があり、その修補のため同被告は合計二九一万円を出捐したことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(三)  被告黒田電気の有する本件根抵当権の被担保債権の元本が昭和五五年一〇月三一日に確定したことは、前記1(二)で説示したとおりである。

ところで、同日現在の右被担保債権の額は、右(一)(二)の合計一五七三万二〇〇〇円である。

(四)  そこで、原告三浦の消滅時効の援用について判断する。

被告黒田電気の主張する請負工事の瑕疵に基づく損害賠償請求は、修補と共にする損害賠償請求ではなく、修補に代わる損害賠償請求であるところ、右損害賠償請求は、「仕事ノ目的物ヲ引渡シタル時ヨリ一年内ニ之ヲ為スコトヲ要ス」るものと定められており(民法六三七条一項)、その権利行使の期間(担保責任存続の期間)は除斥期間と解すべきである。そして、右除斥期間内に裁判外においても権利を行使すれば権利は保全されるものと解すべきである。

これを本件についてみるに、岩崎電気のKA処理装置の工事が完成し検査に合格して右装置の所有権が岩崎電気に移転したのは前記(一)(3)で認定したとおり昭和五五年四月であるので、右の時点を除斥期間の起算点と解すべきところ、《証拠省略》によれば、被告黒田電気はミウラプラント及び原告三浦に対して昭和五五年六月一八日に内容証明郵便で右損害賠償請求をしたが、受取人不在で右郵便は到達せず、同年七月一〇日に再びミウラプラントに郵送したところ、同月一一日に到達したことが認められるので、被告黒田電気は除斥期間内に権利を行使したものというべきであり、原告三浦の消滅時効の主張は失当である。

(五)  B事件の請求の原因3(被告三浦の根保証)の事実は当事者間に争いがない。

(六)  以上の諸事実によれば、A事件の原告三浦の請求については、被告黒田電気の抗弁は理由があるが、原告三浦の再抗弁は理由がないので、同原告の請求は理由がないこととなり、B事件については、被告(B事件原告)黒田電気の請求の原因は理由があり、原告(B事件被告)三浦らの抗弁は理由がないので、B事件被告両名に対し一五七三万二〇〇〇円及びこれに対する元本確定日の翌日である昭和五五年一一月一日から商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める請求は理由があることとなる。

四  結論

よって、A事件については原告両名の請求をいずれも棄却し、B事件については被告(B事件原告)黒田電気の請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 篠田省二)

〈以下省略〉

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